高速波形リフレッシュ・レートの利点
I. 波形リフレッシュ・レートとは何か?
波形リフレッシュ・レートは、オシロスコープが1秒間に更新することができる波形の数(波形/秒)です。類似した用語に波形キャプチャ・レート(取り込みレート)があります。オシロスコープは、信号の取り込み、処理、波形表示、というサイクルを常に繰り返し、波形表示を更新(リフレッシュ)し続けます。取り込みと次の取り込みまでの時間間隔を、キャプチャ周期と呼びます。波形キャプチャ・レートは、1秒間に取り込むことができる波形の数(波形/秒)であり、オシロスコープが信号を取り込む速度を反映しています。特殊な場合を除けば、波形リフレッシュ・レートと波形キャプチャ・レートは同じ値になります。
オシロスコープの波形リフレッシュ・レートは、周波数帯域幅やサンプリング・レートと比べて、重視されにくい性能指標ですが、実際にはとても重要な指標です。画面上で更新される波形は、すべての信号を観測した結果と思い込みがちですが、そうではありません。波形リフレッシュ・レートが低速なオシロスコープでは、システム障害の原因となりうる稀にしか発生しない異常信号を観測できないことが多く、エンジニアのデバッグ効率が大きく低下します。しかしながら、波形リフレッシュ・レートが高速なオシロスコープを使用すると、稀にしか発生しない異常信号を観測できる可能性が高くなります。
波形リフレッシュ・レートはオシロスコープの重要な性能指標です。本文書では、オシロスコープの波形リフレッシュ・レートが高速であることの利点を紹介します。
II. オシロスコープの動作原理
下図はオシロスコープの作業プロセスのブロック図です。信号は入力チャンネルを経由して垂直増幅器に入り、A/D変換器でデジタル・データに変換され、データはメモリに次々と書き込まれます。トリガ条件が成立すると、所定数のデータを書き込んだ後にメモリへの書き込みは終了します。メモリへのデータの書き込みが終了した後、オシロスコープのデータ処理システムがメモリ内のデータを処理して画面に波形として表示します。その後、次のデジタル・データのメモリへの書き込み(波形取り込み)を再開します。
Figure 1. オシロスコープの動作原理
オシロスコープが信号をメモリに取り込み始めてから画面に波形を表示するまでがキャプチャ周期です。キャプチャ周期には、サンプリング時間とデッド・ゾーン時間が含まれます。
サンプリング時間
信号をサンプリングしている時間を、サンプリング時間と呼びます。デジタル・データのメモリへの書き込みの開始から終了までの時間を意味します。サンプリング時間は信号を観測している時間そのものであり、表示波形1つぶんの時間、およびトリガ条件を待っている時間の合計です。表示波形1つぶんの時間は、水平軸スケール値に水平軸グリッド数をかけることで算出できます。
デッド・ゾーン時間
波形を処理して表示するまでの時間を、デッド・ゾーン時間と呼びます。オシロスコープのサンプリングとトリガは主にハードウェアによって実行され、その速度は非常に高速です。波形データ処理には多数の演算処理が含まれ、その速度は主にプロセッサICの演算速度とアルゴリズムに依存します。一般的にデータ処理には時間がかかり、データ処理中はサンプリングを停止しています。その結果、データ処理中の入力信号はサンプリングされないので欠落し、失われることになります。
Figure 2. キャプチャ周期
Figure 4. デッド・ゾーン時間に発生した異常信号
デッド・ゾーン時間を短くできれば、信号の欠落を減らすことができます。デッド・ゾーン時間を短くするとキャプチャ周期も短くなるので、波形リフレッシュ・レートが高速になります。すなわち、波形リフレッシュ・レートが高速なオシロスコープはデッド・ゾーン時間が短いのです。信号の欠落が減るので、稀にしか発生しない異常信号を観測できる可能性が高くなるのです。
次の図は、稀な異常信号が含まれているときの、波形リフレッシュ・レート(キャプチャ・レート)が低速な場合と高速な場合の相違を示しています。波形リフレッシュ・レートが高速なほうが稀な信号を捕捉する確率が高いことがよく分かります。
Figure 5. 低速な波形リフレッシュ・レートと高速な波形リフレッシュ・レート
IV. オシロスコープの波形リフレッシュ・レートの測定
前述のように、波形リフレッシュ・レートはオシロスコープの重要な指標です。オシロスコープの実際の波形リフレッシュ・レートをどのように知ることができるのでしょうか。例として、リゴルの最新のDS70000オシロスコープを取り上げて、オシロスコープの波形リフレッシュ・レートを測定する方法を紹介します。
オシロスコープはトリガ毎に1つの波形をサンプリングしています。つまり1秒あたりのトリガの回数が波形リフレッシュ・レートに相当します。DS70000はリア・パネルのAUX OUTコネクタからトリガ出力信号としてパルス信号を出力します。AUX OUTからのトリガ出力をカウントすれば、波形リフレッシュ・レートを測定できます。
1.機器の準備
テスト対象のオシロスコープDS70000、トリガ出力を測定するオシロスコープMSO8000、ファンクション・ジェネレータDG992、そのほかに、接続ケーブルなどを用意します。
2.機器の接続
(1) DG992のCH1出力とDS70000のCH2入力をケーブルで接続します。
(2) DS70000のリア・パネルのAUX OUTコネクタとMSO8000のCH1入力をケーブルで接続します。
Figure 6. 機器の接続
3.機器の設定
(1) DG992から仕様上限の100MHzサイン波を出力します。
(2) オシロスコープMSO8000のCH1入力の周波数カウンタをオンにします。
(3) DS70000の水平軸スケールをさまざまな値に設定して、MSO8000の周波数カウンタの値を読み取ると、さまざまな条件下でのDS70000の波形リフレッシュ・レートを知ることができます。
DS70000シリーズ・オシロスコープの実際の波形リフレッシュ・レートが、水平軸スケール値が小さいときに、1,000,000波形/秒 以上に達する場合があることがわかります。
V.稀にしか発生しない異常信号をキャプチャする
稀にしか発生しない異常信号があるときのDS70000の取り込み(キャプチャ)性能を見てみましょう。トリガ・ホールド・オフを調整して、あえてリフレッシュ・レートを 10,000波形/秒 に低下させた状態と、リフレッシュ・レートが 1,000,000波形/秒 の状態で比較します。
Figure 7. 波形リフレッシュ・レート: 10,000 波形/秒(トリガ・ホールド・オフで調整)
Figure 8. 波形リフレッシュ・レート: 1,000,000 波形/秒
下の図は、10MHzの正弦波と、異常波形を模した出現頻度がとても低い30MHzの低振幅な正弦波を重ね合わせた波形を観測した結果です。10,000波形/秒 のオシロスコープと 1,000,000波形/秒 のオシロスコープでは、異常波形が表示される確率に明らかな視覚的な違いがあります。
Figure 9. 波形リフレッシュ・レート: 10,000 波形/秒
Figure 10. 波形リフレッシュ・レート: 1,000,000 波形/秒
DS70000は、最高1,000,000波形/秒 もの波形リフレッシュ・レートで波形を捕捉できるので、稀にしか発生しない異常信号を観測することができます。
VI. 最後に
波形リフレッシュ・レートは、オシロスコープの性能を比較するための重要な指標です。波形リフレッシュ・レートがとても高速なオシロスコープは、波形の取りこぼしを減らし、稀にしか発生しない異常信号の観測確率を高め、トラブルシューティングの効率を向上させることができ、エンジニアにとって欠かすことができない有用なツールです。
リゴルは自社開発のUltraVisonIIプラットフォームを搭載した現行製品のオシロスコープ(MSO5000、MSO7000、MSO8000シリーズ)でも、既に6000,000波形/秒 クラスの波形リフレッシュ・レートをサポートしています。
新開発のDS70000シリーズ・デジタル・オシロスコープは、さらに進化したUltraVisonIIIハードウェア・プラットフォームとアルゴリズムにより1,000,000波形/秒 クラスの波形リフレッシュ・レートを達成し、業界のトップ・レベルに到達しました。
DS70000シリーズ・デジタル・オシロスコープは、自社開発のPhoenixオシロスコープ専用チップセットの優れたパフォーマンスにより、20Gサンプル/秒の最高サンプリング・レートと4GHzの周波数帯域幅を実現しています。また、そのほかにも人間工学を考慮したユーザー・インターフェースも提供します。これにより、エンジニアは確実に超高品質な体験をすることができます。
Table 1. DS70000の概略仕様
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